国際線形加速器におけるヒッグス粒子の探索シミュレーション

国際線形加速器(ILC、International Linear Collider)には様々なテーマがあり、ヒッグス粒子の精密測定が最も重要な課題の1つとして挙げられています。ILCは電子と陽電子を衝突させて実験を行う加速器ですが、そのオプションとして光子と光子を衝突させるモードが提案されています。当研究室では、この光子光子衝突モードを利用したヒッグス粒子の精密測定に関する研究を行っています。

加速器を用いてヒッグス粒子を精密に測定するには、非常に精度の高いデータ解析が必要不可欠です。これは、光子と光子を衝突させてできるのはヒッグス粒子だけではなく、他の粒子も大量に生成されるためです(ヒッグス粒子でないものが生成される反応をバックグラウンド反応と呼びます)。光子と光子の衝突点の周りには多数の検出器が配置されており、様々な粒子が検出器を通過したときに情報を残します。この検出器に残していった情報を基にして粒子の精密測定を行うのですが、この情報はヒッグス粒子が残していったものなのかそうでないかを判別し、バックグラウンド反応を除去しなくてはなりません。また、光子光子衝突からヒッグス粒子の対生成反応が起こる確率は極めて低いため、検出器から得られる情報のほとんどはバックグラウンド反応のものになってしまいます。その割合は(ヒッグス粒子):(バックグラウンド)~1:106程度であり、ヒッグス粒子の情報を残しつつバックグラウンド反応を除去するのは極めて難しいことが分かります。

上の2つの図はシミュレーションから得られる反応の一例です。緑の線は様々な粒子の飛跡を表しており、左はヒッグス粒子の反応、右はバックグラウンド反応を表します。見た目だけで判別するのは不可能に近いですが、精密測定を行うには左図のような反応を残しつつ、右図のような反応を除去しなくてはなりません。

当研究室では、この光子光子衝突モードによるヒッグス粒子の精密測定を、コンピュータによるシミュレーションを用いて研究しています。反応断面積の計算⇒光子光子衝突~検出器シミュレーション⇒データ解析という順番でシミュレーションを行い、大量のバックグラウンド反応を除去した上でヒッグス粒子の生成反応を取り出せるかどうか、という点を研究しています。この研究に携わると、主に次のようなことが仕事になります。

なお本研究は当研究室以外の研究機関との共同研究です。

参考

S. Kawada et al.: "Feasibility study of the measurement of Higgs pair creation at a photon linear collider", Physical Review D (2012)

(最終更新日:2014年1月6日)