光子の偏光の弱測定

密林の中をナタ一本で突き進むぐらいざっくりと申しますと、我々は、光を使った量子測定に関する実験的研究を行っております。

量子論において測定という行為はより重要になってきます。近年、量子制御ということがより精密に行えるようになってきておりますが、その元となる量子状態や、得られる情報といった観点ではまだまだ研究が不十分であります。我々のグループでは通常よく知られている射影測定とは違う手法を用いて、測定や状態についての新たな知見や、それを活かした応用を模索しながら研究を進めています。

当研究は、光子の偏光状態を測定の対象としています。光子の偏光は量子ビットの担い手として有力な候補でもあります。よく知られた偏光の測定方法は偏光板を使うことです。近年話題になっている3DTVの方式にも偏光メガネを使うものがありました。このような偏光板を使った測定は偏光板通過後の偏光を偏光板のスリットの方向に変えてしまいます。以上のことは光を光子として扱った場合も同様です(射影測定)。ただし、状態を測定によって破壊してしまうため、もとの偏光状態そのものを知ることは出来ません。光子は量子として重ね合わせ状態を許します。例えば、この重ね合わせ状態は射影測定では測定できません。

通常、測定を行うとその結果が固有値として得られ、そして測定後の状態は破壊されてしまいます(射影測定)。一般に、状態を破壊することと情報を得ることは表裏一体の関係にあります。

弱測定の基本的な概念は、できるだけ状態を壊さないで情報を得るということです。そのために鍵となるのが以下の2点です。

・弱く相互作用させる

・終状態を選択する

間接測定において、相互作用を状態を壊さないように小さくし、かつ被測定系の状態をこちら側で意図的に選択することによって、有意な測定結果を得ることができます。弱測定の主な特徴は次の2点です。

・状態をほとんど壊さない

・弱値と呼ばれる測定値が増大して得られる

弱測定の特徴を活かすことで射影測定では実現できなかった様々なことが実現でき、新しいことがわかるのではないかと期待しています。例えば、一つの状態の連続測定が可能になります。また、先ほど例に挙げた重ね合わせ状態を直接測定することも出来ると考えています。

我々のグループでは弱測定を用いて主に、量子論における測定の諸問題について実験的に踏み込みたいと考えています。実験はレーザーを用いて光子を準備し、単一光子検出器で測定を行います。その間に線形光学素子で組み上げた干渉計を構築することによって弱測定が実現できます。現在のところ、実験結果として弱測定が行えること、さらに我々のセットアップが非常に弱測定に有利であることを確認できています。理想に近い弱測定が行えたことは、測定の反作用に実験の不完全性が影響しないことを示しています。

(量子)測定 量子光学 干渉 コヒーレンス エンタングルメント

" Weak measurement of photon polarization by back-action induced path interference "

              M.Iinuma, Y.Suzuki, G.Taguchi, Y.Kadoya, and H.F.Hofmann, New J. Phys. 13, 033041 (2011)

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    連絡先 : (mail) iinuma [at] hiroshima-u.ac.jp

Quantum Frontier Group (QFG)    

この研究は、量子物質科学専攻量子光学物性研究室との共同研究グループQFGを中心に行っています。

             http://home.hiroshima-u.ac.jp/qfg/qfg/index.html

last update 2011.4