ILCのための測定器の開発

国際線形衝突型加速器(ILC、International Linear Collider)では電子と陽電子を衝突させ、その反応を測定器でとらえてデータを見ます。本研究はその測定器そのものを開発することです。

図1:ILD測定器システムの外観図。引用元:ILC Technical Design Report

ILCで用いられる測定器システムは非常に大きなものです。測定器システムとしてILD(International Large Detector)とSiD(Silicon Detector)の2つが提案されており、日本グループはILDの開発に携わっています。図1はILD測定システムの外観図です。ILDシステムは衝突点の近くから順に、高精度飛跡測定器(バーテックス測定器)・3次元飛跡測定器(TPC、Time Projection Chamber)・電磁カロリーメータ・ハドロンカロリーメータ・ミューオン測定器という構成になっています。当研究室ではTPCの開発、特にGEMを用いたTPCの開発に関わっています。

 

 

図2:TPCの概略図。

 

TPCは荷電粒子の3次元的な飛跡を再構成することでその粒子の運動量を測定することができる測定器です。TPCの概略図は図2のようになります。 ①電子と陽電子(オレンジ矢印)の衝突によって生じた荷電粒子はTPCの内部を通過します。TPC内には気体が流されており、②荷電粒子はこの気体分子を電離(黄星マーク)しながら通過することになります。TPC内には図の向きに電場と磁場が印加されているので、電離によって生じた陽イオンは陰極(白線)方向へ、③電子は陽極面の方向(右)へ向かって(磁場により螺旋を描きながら)移動します。最終的に電子は陽極面に到達して電荷信号として読み出されますが、電子の数が少ないと信号として読み出せないため、電子数増幅のためにガス電子増幅器(GEM、Gas Electron Multiplier)を用います。④電子は陽極面手前に設置されたGEMを組み込んだモジュールによってその数が増幅されます。増幅された電子は、⑤荷電粒子の飛跡の2次元位置情報の信号として読み出されます。荷電粒子のもうひとつの座標は、陽極面に電子が到達した時間から算出されます。こうして求まった荷電粒子の飛跡の曲率と測定器内に印加された磁場強度から、その粒子の運動量を知ることができます。

図3:GEMの拡大図。

 

GEMは欧州合同原子核機構(CERN)のF.Sauli氏によって開発された電子ガス増幅器です。図3はGEMの拡大図です。GEMは絶縁体を銅箔で挟んだ薄いシート状の形をしており、シートの表面には直径70μm程度の微小な穴がおよそ70μm間隔で開けられています。銅箔の表面と裏面に300V程度の電位差を与えると穴中には高電場が発生します。電子は穴を通る際に高電場によって強く加速され、衝突した気体を次々と電離する“電子雪崩”を発生します。このようにして最終的に電子の数を指数関数的に増やすことができます。この増幅によって、電子の信号読み出しが可能になります。

従来のTPC の電子増幅部である多芯比例係数管に比べ、GEMは低い電圧で作動する、位置分解能が向上する、複数枚重ねて使用できる、などの利点がある一方、電場を高くしすぎると放電を起こす確率が高くなるという問題点があります。

また気体の電離によって生じる陽イオンの数が多くなると、TPCの内部に印加している電場が歪んで、ドリフト移動している電子に影響を及ぼし、位置情報の精度をが悪化します。その他にも、信号を読み出すためのエレクトロニクスとその冷却、データ解析を行うためのソフトウェアの開発など、検討されるべきテーマは数多くあります。

本研究で取り組むことのできるテーマを以下に列挙します。

本研究はLC-TPCコラボレーションに属する共同研究です。

(最終更新日:2015年2月18日)