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ATPの高感度検出

私たちは、先端物質科学研究科の分子生命機能科学専攻の細胞工学研究室と量子物質科学専攻の量子光学物性研究室との共同で、ATP(アデノシン三リン酸)の高感度検出に取り組んでいます。ATPはすべての生命体のエネルギーとなる分子として考えられており、ATP検出を通じて細菌の検出が可能になります。特にATPの微量検出ができれば、細菌を1個体レベルで検出することが可能になります。細菌は増殖するので、食品衛生現場や医療現場などでは1個体の存在でも問題になる場合があります。そのため細菌の一個体レベルの感度を持つ検出方法の実現が望まれていますが、現在でもそのレベルまで到達していません。

ATP(アデノシン三リン酸)とは。。


すべての生命体が保有するエネルギー源となる分子と考えられています。分子構造は下記のようになっています。


化学式
 C10H16N5O13P3
分子量
 507.181 g/mol

「アデノシン三リン酸」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』( http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%87%E3%83%8E%E3%82%B7%E3%83%B3%E4%B8%89%E3%83%AA%E3%83%B3%E9%85%B8 )。 2011年2月 1日13時(日本時間)現在での最新版を取得。

ATPの検出方法


ATPの検出方法でもっとも簡便で感度の高い方法は、ホタルの発光現象を応用した検出方法です。ホタルの発光現象は、基質ルシフェリンが酵素ルシフェラーゼに取り込まれて酸化される際に、酸化ルシフェリンが高励起状態で生成されるため、酸化ルシフェリンが基底状態へ遷移するときの発光現象として理解されています。このときATPの一分子によって反応に必要なエネルギーが供給されます。発光反応は以下の一連の形で書くことができます。

ルシフェリン(LH2) + ATP + ルシフェラーゼ(FL) ⇄ 中間生成物(FL・LH2-AMP) + ピロリン酸(PPi)  (平衡反応)

中間生成物(FL・LH2-AMP) + O2  → 酵素基質複合体(FL・P) + AMP + CO2 + 
光子          (律速反応)

酵素基質複合体(FL・P)  ⇄  FL + 酸化ルシフェリン(P)                            (平衡反応)

ここでAMPはアデノシンモノリン酸のことで、ATPが加水分解してピロリン酸を切断した後の残りの部分です。ATPは加水分解のときにエネルギーを放出します。上記の”中間生成物”や”酵素基質複合体”は、基質(ルシフェリンや酸化ルシフェリンなど)や中間生成物(LH2-AMPなど)が活性酵素ルシフェラーゼ(FL)に取り込まれた状態を示しています。平衡反応とは、ルシフェラーゼが基質を取り込んだ状態と取り込んでいない状態の平衡を示します。

この一連の反応では、ATPの1分子の消費にともなって、
1光子が放出されます。この反応を積極的に利用して、放出された1光子を単一光子検出器を用いた光子計測法によって、ATPを検出することができます。

光ファイバーを用いたATPの局所的高感度検出

発光はルシフェラーゼに取り込まれた酸化ルシフェリンで起こることから、活性酵素ルシフェラーゼを固定してやると発光領域を局所的に限定することができます。特に光ファイバー先端部分に固定すれば、光ファイバー先端がセンサーとして機能するため(下記の図)、以下のような特徴を持たせることができます。

1) 細菌の
嗜好性を利用することによって、細菌の種類別での検出が可能になる。
2)  μTASなどの複合システムにおいて、光検出器を近傍に設置できない場合でも利用可能である。
3) 感度に応じて適切な光検出器を選択することが可能になる。
4) 光ファイバー先端を直接あてがう検出方法も可能である。

もしATP濃度10^{-13} [ mol / ℓ ]の検出感度が達成できれば、光ファイバー近傍の0.1[mm^3]の領域内で、細菌一個体レベルの検出感度を達成することができます。



ルシフェラーゼの光ファイバー先端部への固定は、シリコンバインディングプロテイン(SBP)との融合たんぱく質であるSBP-ルシフェラーゼを使って行いました。SBP-ルシフェラーゼは、同じ広島大学大学院先端物質科学研究科分子機能生命科学専攻の黒田教授のグループにより初めて開発されたものです。なお光子の検出は光ファイバーのもう一方を単一光検出器と結合させることで実現できます。

現在までの検出感度


現在まで、単一光子検出が可能な標準的な半導体検出器(アバランシェフォトダイオード)を用いて、
ATPの濃度の検出限界として10^{-10} [ mol / ℓ ]まで確認されています。もっと暗電流カウント数の低い現存の半導体検出器を用いると、ほぼ一桁程度の感度向上が見込めます。また確認された感度は、予想した感度よりも二桁程度低いことがわかりました。現在は、この原因を追及するための研究を進めています。

関連論文:
(1)  田中龍太、高浜絵里子、飯沼昌隆、池田丈、角屋豊、黒田章夫、”固定したルシフェラーゼからの生物発光反応”、
       電気学会論文誌C(電子・情報・システム部門誌) IEEJ Trans. EIS, Vol. 131, No. 1. (2011)
(2)  飯沼昌隆、牛尾恭章、黒田章夫、角屋豊、”光ファイバー先端での生物発光を利用した高感度ATP検出”、
       電気学会論文誌C(電子・情報・システム部門誌) IEEJ Trans. EIS, Vol. 127, No. 10, (2007)
(3)  Masataka Iinuma, Yasuyuki Ushio, Akio Kuroda, and Yutaka Kadoya,
       "High-Sensitivity Detection of Bioluminescence at an Optical Fiber End for an ATP Sensor"
       FIBER OPTIC SENSOR edited by M. Yashin, S. W. Harun, and H. Arof, published in Feb/2012,
       p.p. 459-474 


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