加速器とILC(国際リニアコライダー)

1.加速器の役割

 加速器(アクセラレーター:Particle Accelerator)とは素粒子物理学の分野で利用される高エネルギー実験装置のことで、20世紀半ば以降の現代物理学の発展に大きな役割を果たしてきました。電子や陽電子などの素粒子、また陽子や重イオンなどの荷電粒子を、加速電場を用いて光の速度にまで加速、それを衝突させて得られる様々な物理現象を観察します。その内容は主に、提唱された理論の検証や新粒子・新物理の発見などで、2008年にノーベル物理学賞を受賞された南部・小林・益川氏らの研究も、加速器による高エネルギー物理学実験による精密検証が決め手となっています。
 近年、加速器は素粒子物理学の分野に留まらず幅広い分野で利用が進んでいます。研究利用としては、物質の構造解析に使用する為の高輝度X線源として加速器が利用され(放射光施設)、物性物理学や半導体デバイス、高分子タンパク質の機能研究などに貢献してきました。  また医療分野での利用は既に広く浸透しており、患者の体にメスを入れることなく体内の病巣を取り除くために、加速器を用いてX線や重粒子線による放射線照射治療が行われています。また最近ではPETなどのアイソトープ検診・治療に使用する目的で、国内で多数の小型シンクロトロンが建設されています。工業利用においてはX線による微細デバイス加工や、透過検査などの利用が挙げられ、さらに近年では加速器の作りだす均一で純度の高いビームを利用して、特定の元素をデバイス上に均一に積層する加工技術などが実用化されています。
 研究利用目的の高エネルギー加速器研究施設は、これら加速器のなかでも先進的な技術開発が必要とされる大規模な研究施設で、加速器のフォーミュラー・ワンとも言えるものです。これら高エネルギー加速器の設計で得られた技術は、より小規模の加速器へと順次応用されてきました。また小型加速器の設計・製造から得られたノウハウも、建設費用のかさむ大型加速器への設計などにフィードバックされています。


2.加速器の種類

 加速器には構造や使用するビームにより様々な種類があります。共通するのは荷電粒子を電場を用いて加速するということです。
  • 加速法による区分 : 静電加速器・RF加速
 加速に電極間に与えた高電圧を用いる方法と高周波電圧を用いる方法があります。前者を静電加速器と呼び、これは最も初期に実用化された加速器です。静電加速では粒子に与えられるエネルギーが10MeV程度で限界になるため、変わって高周波を利用する加速方法が考案されました。高周波加速(RF加速)では与えた高周波電圧の一方向の電場加速成分のみを、逐次的に粒子に与えてゆくような工夫がなされています。現在実用化されている全ての高エネルギー加速器には、このRF加速が利用されています。
  • 構造による区分 : サイクロトロン・ベータトロン・シンクロトロン・線形加速器
サイクロトロン
 加速器はその形状から大きく分けて2種類、円形加速器と線形加速器が存在します。円形加速器としてはまずサイクロトロン(Cyclotron)が実用化されました。サイクロトロンでは半円状の電磁石を2台配置し、そのギャップ部分に高周波電圧をかけます。入射した荷電粒子は磁場中で円軌道を描きながら運動しますが、この運動周期と高周波の周波数が一致すれば、粒子はギャップ(加速電場)に到達するたびに逐次的に加速を受けることが出来ます。粒子は加速を受けるたびに運動の曲率半径が大きくなりますから、その軌道は螺旋を描きます。最終的に高エネルギーのビームとなった外周部分で静電的にビームをはじき引き出します。サイクロトロンは主に陽子や重イオンなどを加速する際に使用され20MeV程度まで加速が可能でした。
 サイクロトロンの高エネルギー化を目指した場合、問題になるのは加速粒子の相対論的効果です。粒子はその運動速度が高速度に近くなるにつれて質量が増加し、結果として速度増加が抑制され運動の周期が変化します。この変化を補正し加速を続けるためにFM(Frequency Modulation:波数変調)型サイクロトロン、つまりシンクロサイクロトロン(Synchrocyclotron)やAVF(Azimuthally Varying Field:等時性磁場)型サイクロトロン、リングサイクロトロンなどが考案・実用化されました。理化学研究所で稼働中の超伝導リングサイクロトロン(SRC)では500MeV以上の加速エネルギーを持った高品質なビームを得ることができます。

ベータトロン
 サイクロトロンでは粒子は螺旋状の軌道を描き、それを覆う全ての範囲に電磁石が必要なために装置が大重量化するという欠点がありました。この問題を解決するためには、粒子を一定起動で回転させ加速しなければなりません。これを実現するため考案されたのがベータトロン(Betatron)とシンクロトロン(Synchrotron)です。ベータトロンは主に電子を加速するのに使用される加速器です。磁場中で電子を円運動させたうえで印加する磁場を時間的に増加させることにより、誘導起電力を発生させ電子を加速することができます。このとき電子の軌道が一定になるように磁場の増加を調整します。このような加速により数十MeVの電子を得ることが可能です。

シンクロトロン
 シンクロトロンは真空ダクトと偏向電磁石を組み合わせた円形加速器です。加速粒子のエネルギーに合わせて偏向電磁石にかける電流を調整してゆきます。加えてギャップ(加速電場)の周波数も変えてやり、粒子が一定軌道を描きながら加速するようにします。シンクロトロンでは高品質のビームを得るためにライン上の各点にビーム収束用の電磁石が配置されています。そのためリングを高周期で周回するビームの軌道を計算するのは容易ではなく、リングの設計段階から非常に精密なシミュレーション計算が行われます。シンクロトロンはその設計形状により使用可能なエネルギー領域が決定してしまいます。現在稼働している最大の加速器はスイスのジュネーブ郊外に建設されたCERN(欧州原子核研究機構)のLHC(Large Hadron Collider:大型ハドロン衝突型加速器)で、陽子を7TeVにまで加速することが可能です。しかしその円周は27kmにも及び、建設費も一国で担える規模を超えるものになっています。
 前述したように円形加速器はその設計形状で使用可能なエネルギー領域が決まってしまいます。これは到達可能なエネルギーというだけでなく、加速前の入射するビームのエネルギーにも制限があるという事です。そのため高エネルギー加速器では前段階の加速を行うための小型加速器が併設されています。例えば先ほどの理研の超伝導リングサイクロトロン(SRC)では、前段の線形加速器(RILAC)から理研リングサイクロトロン(RRC)、中間段リングサイクロトロン(IRC)、そしてSRCとなっています。2005年まで稼働していたKEK(高エネルギー加速器研究機構)の陽子シンクロトロンでは、前段の線形加速器から500MeV陽子シンクロトロン(ブースター)、12GeV陽子シンクロトロン(主リング)となっています。

線形加速器
 シンクロトロンでは荷電粒子をギャップ(加速電場)に何度も通すことで粒子を加速していました。このギャップを直線状に並べたものを線形加速器と呼びます。





  • 加速粒子による区分 : 衝突型加速器・レプトンコライダー・ハドロンコライダー


3.ILC(国際リニアコライダー)
(Yuuki Uesugi 29 July 2011)
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