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ILCにおける物理検討

去る2012年7月4日、欧州原子核研究機構(CERN)にてヒッグス粒子らしき新粒子が発見されました。標準模型の中で唯一未発見だった粒子が発見されたことにより、今後はその新粒子がどのような性質を持っているかを明らかにすることが、素粒子物理学の次の重要なテーマになります。

図1:ATLASのイベントディスプレイの一例。引用元→http://www.atlas.ch/photos/higgs-candidate-events.html

新粒子の性質を調べるには精密測定が不可欠です。CERNにて運転が行われている大型ハドロン衝突器(LHC、Large Hadron Collider)では、クォークの複合粒子である陽子同士を衝突させて研究を行っています。陽子同士の衝突反応は非常に複雑であり、たった1回の陽子‐陽子衝突でも多数の反応が発生するため、調べたい反応をその他の反応から選別することが難しくなります。図1はATLASグループがとらえたh→4μと考えられる事象のイベントディスプレイです。赤線がミューオンを表します。赤線だけを見ればシンプルに見えますが、それ以外にも黄色線で書かれた多数の粒子があることが分かります。多数の粒子が存在している中で調べたい反応だけを選別するのは難しく、LHCだけで非常に精密な測定をすることはなかなか難しいと言えるでしょう。

図2:ILCにおけるイベントディスプレイの一例。引用元:ILC Technical Design Report

そこで、精密測定を行うための加速器として国際線形衝突型加速器(ILC、International Linear Collider)の検討が進められています。ILCでは素粒子である電子と陽電子を衝突させるので、LHCにおける反応に比べて複雑ではなく、見たい反応が見えやすいという特徴があります。図2はILCにおけるイベントディスプレイの一例です(e+e-→Zh→(μ+μ-)(bB)、B=反bクォーク)。図1に比べて粒子数が少ないことが分かります。LHCに比べてより精密測定を行いやすい環境であるため、ILCにおける精密測定は非常に期待されています。

ヒッグス粒子の重要な性質の1つとして、ヒッグス粒子の崩壊分岐比が挙げられます。これはヒッグス粒子がどの粒子に崩壊するかの割合を表したものです。これを知ることはヒッグス粒子の性質を理解することにつながります。また、ヒッグス粒子の崩壊分岐比をプローブとすることで、標準模型を超える物理の存在を示唆することができる可能性があります。標準模型の予言では、粒子の質量とその粒子のヒッグス粒子に対する結合定数との関係は比例関係になります。しかし標準模型を超えた物理が存在すると、標準模型が予言する比例関係の直線からのずれが生じます。このずれを有意に測定できれば、標準模型を超えた新しい物理があることの証拠になります。また2013年末現在で、標準模型を超える新物理の存在は示唆されていません。これは裏を返せば、新物理の効果が小さいために精密測定が必須であると言うこともできます。

ここまで精密測定の重要性を述べてきましたが、実際にILCでどのような反応をどれくらいの精度で測定できるかという点が課題になります。定量的な評価を行うためにコンピュータシミュレーションを用いて疑似的な事象を発生させてデータ解析を行うことで、見たい反応がどれくらいの精度で測定できるかを見積もることができます。

当研究室では上述したようなILCにおける物理検討、特にヒッグスの物理の研究を行っています。主な仕事内容は以下の2点に集約されます。
  • シミュレーションを行うためのプログラムの構築(主にC++)と実行
  • データ解析
なお本研究は当研究室以外の研究機関との共同研究です。

参考文献:
S. Kawada, Keisuke Fujii, Taikan Suehara, Tohru Takahashi, Tomohiko Tanabe, arXiv:1308.5489 [hep-ex]
(最終更新日:2014年1月6日)
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